アドトラーザ 服薬指導のポイント

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アトピー性皮膚炎の治療において、生物学的製剤は患者さんのQOL向上に大きく貢献しています。今回、アドトラーザ(トラロキヌマブ)について、薬剤師として知っておくべきポイントをまとめてご紹介します。

アドトラーザの基本情報

成分:トラロキヌマブ
適応:既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎
用法及び用量:通常、成人にはトラロキヌマブ(遺伝子組換え)として初回に600mgを皮下投与し、その後は1回300mgを2週間隔で皮下投与する。
禁忌:本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者

アトピー性皮膚炎治療薬の現在の選択肢

現在、日本で使用可能なアトピー性皮膚炎治療の注射薬は4種類あります。それぞれの特徴を整理すると以下のようになります。

**デュピクセント(デュピルマブ)**は、IL-4とIL-13受容体をブロックする作用機序で、最も普及している製剤です。ただし、結膜炎の副作用が比較的多く見られ、薬価は53,659円です。(300㎎ペンの場合。300㎎シリンジ、200㎎シリンジ製剤あり)

**ミチーガ(ネモリズマブ)**は、IL-31受容体Aを標的とし、かゆみに特化した治療薬として注目されていますが、薬価が116,426円と最も高額になっています。(60㎎シリンジの場合。30㎎バイアル製剤もあり)

**アドトラーザ(トラロキヌマブ)**は、IL-13に選択的に結合する作用機序で、副作用が少なく薬価も41,859円と比較的安価な設定となっています。(300㎎ペンの場合。150㎎シリンジ製剤もあり)

**イブグリース(レブリキズマブ)**も同じくIL-13選択的な作用機序を持ち、効果の立ち上がりが早いことが特徴で、薬価は50,782円です。(オートインジェクターとシリンジ、同薬価)

※薬価は2025.7現在

アドトラーザの投与スケジュールと効果

アドトラーザにはペンとシリンジ製剤がありますが、現在はペン型が主流のため以下ペン型について解説します。
アドトラーザ皮下注ペンの投与スケジュールは、初回に2本の皮下注射を行い、その後は2週ごとに1本ずつ投与します。半減期は約3週間であり、海外では4週ごとの投与スケジュールも認可されているため、国内でも将来的に検討される可能性があります。

臨床試験における効果指標では、16週時点でのIGA 0/1達成率が32.1、EASI-75達成率は16週で71.7という結果が報告されています。効果の立ち上がりは6週目以降から有意差が認められますが、注目すべきは、かゆみやQOLの改善については2週目から患者さんが実感できるという点です。
※「IGA 0/1達成率」とは、治療後に患者さんの皮膚症状が「ほぼ消失(IGA 1)」または「完全消失(IGA 0)」の状態になった人の割合
※「EASI-75達成率」とは、治療開始時点(ベースライン)に比べて、患者のEASIスコア(皮疹の範囲と重症度の指数)が75%以上改善した人の割合

副作用メカニズムの理解

アドトラーザの特筆すべき点の一つが、結膜炎の発症率の低さです(5.8〜6.2%)。これは、サイトカインネットワークの理解が重要になります。

IL-4を抑制するとTh2細胞が減少し、相対的にTh1細胞が活性化されます。その結果、IFN-γの産生が増加し、盃細胞のムチン産生が抑制されて結膜炎のリスクが上昇します。アドトラーザはIL-13に選択的に作用するため、この副作用メカニズムを回避しやすいと考えられています。
下図赤矢印参照。

自己注射の導入と実務対応

自己注射の導入については、初回から3回目程度までは院内でトレーニングを行い、その後自己注射処方に移行することが多いです。使用資材としてジェルパッド、手順書、チェックリストなどが完備されています。現在シリンジとペンがありますが、ペン型デバイスが95〜99%と主流になっています。

遮光のため外箱のまま冷蔵庫で保管します。使用45分前に出して常温に戻しますがこの時も外箱のまま。使用直前に開けてください。
皮下注射は、大腿部、腹部又は上腕部に行うこと。腹部へ投与する場合は、へその周りを外して投与すること。同一箇所へ繰り返し注射することは避けることが大切です。アトピー性皮膚炎の症状の強い炎症のある部位には打ちません。
室温に戻した場合は30度を超えない場所で14日以内に使用します。

投与間隔については、原則2週ごとですが、延長(遅延投与)は許容されることが多く、最大15週間空いても問題なかったというデータもあります。一方で、短縮(前倒し)は副作用リスクがあるため推奨されていません。
投与中止後、再開したい場合は1本投与からで原則対応可能です。

デュピクセントとの比較検討

アドトラーザとデュピクセントを比較すると、アドトラーザはIL-13のみを標的とするのに対し、デュピクセントはIL-4とIL-13の両方を標的とします。体感効果の速さについてはデュピクセントが早い場合も多いようですが、アドトラーザの方が結膜炎の頻度が低く抑えられています。薬価の面でも、アドトラーザの方が安価な設定となっています。

まとめ

アドトラーザは、価格・副作用・効果実感のバランスに優れた治療選択肢として位置づけられます。IL-13に特化した作用機序により結膜炎リスクを相対的に低減でき、自己注射資材と導入支援も充実しています。

アトピー性皮膚炎患者さんの個別の病態や生活背景を考慮しながら、適切な治療選択肢として検討していくことが重要です。薬剤師として、これらの特徴を理解し、患者さんへの適切な情報提供と服薬指導に活かしていきましょう。

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本記事は、一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断や治療を推奨するものではありません。
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