



原発性腋窩多汗症の治療において、2020年に塗る治療薬として発売されたエクロックゲルに続き、2022年にラピフォートワイプが発売されました。両剤とも保険適用の外用薬として注目されていますが、その特徴や使い分けについて詳しく解説します。
各薬剤の適応症と基本情報
エクロックゲル
- 適応症: 原発性腋窩多汗症
- 有効成分:ソフピロニウム臭化物
- 剤型:20g包装アプリケーター 40g包装ツイストボトル
- 発売年: 2020年
ラピフォートワイプ
- 適応症: 原発性腋窩多汗症
- 有効成分: グリコピロニウムトシル酸塩水和物
- 剤形: 薬液を不織布に含浸させた製剤(ワイプタイプ)
- 発売年: 2022年
原発性腋窩多汗症とは?
原発性腋窩多汗症とは汗の量が多くなる原疾患がないにもかかわらず多量の汗に悩まされる病態です。
診療ガイドラインでは以下の診断基準が設けられています。
<局所的に過剰な発汗が明らかな原因がないまま6カ月以上認められ,以下の6症状のうち2項目以上あてはまる場合>
1)最初に症状がでるのが25歳以下であること
2)対称性に発汗がみられること
3)睡眠中は発汗が止まっていること
4)1週間に1回以上多汗のエピソードがあること
5)家族歴がみられること
6)それらによって日常生活に支障をきたすこと
用法・用量の違い
エクロックゲル
- 1日1回、腋窩部に塗布
- 専用アプリケーターを使用して、もしくはツイストボトル(ひねると必要量の薬液が出る)により直接手に触れることなく塗布
- 12歳未満の臨床試験は実施していない
ラピフォートワイプ
- 1日1回使用
- ワイプで腋窩部を拭き取るように使用
- 使用後は手洗い必須
- 9歳未満の臨床試験は実施していない
禁忌事項
両薬剤とも抗コリン薬であるため、以下の禁忌事項があります:
共通の禁忌
- 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
- 閉塞隅角緑内障の患者
- 前立腺肥大等による排尿困難のある患者
それぞれの使い方の特徴
エクロックゲルの使用法
ゲルが手について、それが目や口に入ると光をまぶしく感じたり、口が乾くという副作用がでることがあるので、直接手で触らないですむように設計されています。
使用手順:
- 腋窩部を清潔にする
- 専用アプリケーターを用いて、またはツイストボトルにてゲルを塗布
※1回で吐出する量が1回分です。
※20gボトルは約14日分、40gボトルは約28日分

科研製薬様よりお借りしました。
20gボトルの方が先に発売されたのですが、アプリケーターがある分だけ容器が大きいです。
40gボトルは容量が倍になったにもかかわらず大きさが20gボトルの半分しかないので最初は戸惑います。
ラピフォートワイプの使用法
ワイプタイプであるラピフォートは薬液含浸の不織布を手で持って使用する必要があります。
使用手順:
- 腋窩部を清潔にする
- ワイプを取り出し、腋窩部を拭く
- 使用後は十分に手洗いする
- 使用したワイプは適切に廃棄

マルホ製薬様よりお借りしました
主な違いの比較
項目 | エクロックゲル | ラピフォートワイプ |
---|---|---|
有効成分 | ソフピロニウム | グリコピロニウム |
剤形 | ゲル | ワイプ |
使用感 | 塗布タイプ | 拭き取りタイプ |
手への接触 | 最小限 | 注意が必要 |
携帯性 | やや劣る | 優れる |
作用機序:M3選択性とアポハイドローションとの違い
共通の作用機序
エクロックもラピフォートワイプも、エクリン汗腺が交感神経から伝えられる汗を出す指令を受け取れないようにブロックすることにより発汗を押さえます。具体的には、神経から「汗を出せ」という指令をする物質(アセチルコリン)がでて、汗腺(エクリン汗腺)でそれを受け取り、汗がでる、出過ぎてしまう、という腋窩多汗症に対して、汗腺のアセチルコリンを受け取る部分(受容体といいます)をブロックして、指令が入らないようにする仕組みです。
M3選択性の重要性
グリコピロニウムとソフピロニウムは、M3ムスカリン受容体に対する選択性が高いという特徴があります。この選択性により、以下の利点があります:
重症筋無力症患者への使用可能性
従来の抗コリン薬の多くは重症筋無力症患者には禁忌とされていましたが、M3選択性の高い薬剤では、神経筋接合部のニコチン性アセチルコリン受容体への影響が少ないため、慎重な観察下での使用が検討される場合があります。
アポハイドローションとの違い
アポハイドローション(オキシブチニン外用液)と比較して:
- 受容体選択性: グリコピロニウム、ソフピロニウムはM3受容体により高い選択性を示す
- 全身への影響: M3選択性により、口渇や便秘などの全身性副作用が軽減される可能性
- 神経筋接合部への影響: ニコチン性受容体への影響が少ないため、重症筋無力症のような神経筋疾患への影響が軽減される
塩化アルミニウムとの併用について
塩化アルミニウム溶液は作用機序が全く異なります。塩化アルミニウム溶液は、汗を出す管(汗管)の細胞に作用し、この管を閉塞させることで発汗が減少するといわれています。したがって、塩化アルミニウム溶液とエクロックゲル、ラピフォートワイプを併用する意義は大いにあるとされています。
患者さんへの選択指針
エクロックゲルが適している場合
- 手に薬剤が付着することを避けたい患者
- 自宅での夜間使用が主な患者
- アプリケーターの使用に問題のない患者
ラピフォートワイプが適している場合
- 携帯性を重視する患者
- 外出先での使用を考慮する患者
- ワイプタイプの使用感を好む患者
まとめ
エクロックゲルとラピフォートワイプは、いずれも原発性腋窩多汗症に対する有効な治療選択肢です。機序はほとんど同じでありながら、剤形や使用感、薬物学的特性に違いがあります。特にラM3選択性は、重症筋無力症などの神経筋疾患を有する患者への適用可能性を広げる重要な特徴といえます。
患者さんのライフスタイル、病歴、使用感の好みを総合的に考慮して、最適な治療薬を選択することが重要です。また、効果が不十分な場合は塩化アルミニウム製剤との併用も検討され、多汗症治療の選択肢は着実に広がっています。
免責事項
本記事は、一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断や治療を推奨するものではありません。
記事中で取り上げている薬剤情報は、信頼できる資料に基づいて正確に記載していますが、
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