



薬剤師の皆さん、慢性便秘症の治療選択肢が増えてきた昨今、グーフィス(エロビキシバット)の特徴を正しく理解していますか?今回は4コマ漫画を交えながら、グーフィスの基本情報から実務ポイントまで分かりやすく解説します。
📋 グーフィス基本情報
適応
- 慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)
用法・用量
- 成人:エロビキシバットとして10mgを1日1回食前に経口投与する。なお、症状により適宜増減するが、最高用量は1日15mgとする。
- 小児:安全性は確立されていない
禁忌
- 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
- 腫瘍、ヘルニア等による腸閉塞が確認されている又は疑われる患者[腸閉塞を悪化させるおそれがある。]
🧬 胆汁酸とは?~生体の巧妙なリサイクルシステム~
グーフィスを理解するには、まず胆汁酸の働きを知ることが重要です。
胆汁酸は肝臓でコレステロールを原料に合成され、以下の複雑な運命をたどります:
胆汁酸の一生
- 誕生:肝臓でコレステロールから合成(一次胆汁酸:コール酸、ケノデオキシコール酸)
- 仕事:胆嚢から十二指腸へ分泌され、脂肪の乳化・消化を促進
- 変身:腸内細菌により二次胆汁酸(デオキシコール酸、リトコール酸)に変換
- リサイクル:約95%が回腸末端で再吸収され、門脈→肝臓へ戻る(腸肝循環)
- 引退:約5%が糞便中に排泄(1日600-800mg)
この腸肝循環により、胆汁酸は1日に6-10回も肝臓と腸を往復する働き者なのです。
🆚 従来薬との比較~グーフィスの慢性便秘症治療における位置づけ~
慢性便秘症診療ガイドライン2023では、段階的治療アプローチが推奨されています。
治療ステップとグーフィスの位置
ファーストステップ:浸透圧性下剤
├─ 酸化マグネシウム(安価、効果高い)
└─ モビコール(腎機能低下患者、小児適応)←詳しくは前日の記事をご参照ください
↓ 効果不十分時
セカンドステップ:腸管分泌機能変容薬・胆汁酸トランスポーター阻害薬
├─ アミティーザ(腸内水分分泌促進)
├─ リンゼス(腸内水分分泌促進)
└─ グーフィス ← ここ!(多面的作用)
グーフィスの独自性
従来の便秘治療薬と比較して、グーフィスには以下の特徴があります:
薬剤分類 | 主な作用機序 | 代表例 |
---|---|---|
浸透圧性下剤 | 水分保持 | 酸化Mg、モビコール |
腸管分泌機能変容薬 | 水分分泌促進 | アミティーザ、リンゼス |
胆汁酸トランスポーター阻害薬 | ①水分分泌促進 ②腸管運動促進 ③便意回復 | グーフィス |
グーフィスの三刀流効果
- 水分分泌促進:胆汁酸が腸管に留まることで水分分泌を促進
- 腸管運動促進:胆汁酸による腸管蠕動運動の活性化
- 便意の回復:胆汁酸による直腸の感受性向上
臨床効果
- 初回排便までの時間:平均5.2時間(他剤より早い傾向)
- CSBM(完全自発排便:自力で残便感のない排便)回数の増加:国内52週試験で有意な改善を確認
- QOL改善:JPAC-QOLスコア(便秘が患者の生活の質(QOL)に与える影響を評価するための質問票)の有意な改善
💡 実務上のポイント
適応患者の見極め
グーフィスが特に有効な患者群
- 高齢者(安全性が高い)
- 透析患者(腎機能の影響を受けない)
- 便意消失型の便秘患者(便意回復効果が期待)
- 水分制限のある患者(少量服用で効果)
※胆のう摘出後の患者でも、少量でも胆汁酸分泌があるため効果は期待できる
注意が必要な患者
- 経腸栄養のみの患者:食事摂取がないと胆汁酸分泌は少ないため効果が不十分な可能性
- 腫瘍、ヘルニア等による腸閉塞が疑われる患者(禁忌)
服用タイミング
- 添付文書:食前服用推奨
- 実臨床:空腹時を避けていれば食後服用でも効果あり
- 患者指導:「できるだけ食前、難しければ食後でも構いません」
副作用と対策
主な副作用
- 腹痛、下痢、悪心、腹部膨満感
- 大部分は軽度、死亡例なし
- 対策:症状に応じて用量調整、必要時休薬
他剤との使い分け
酸化Mg使用困難(腎機能低下、PPI併用)
↓
モビコール検討
↓
効果不十分 or より早い効果希望
↓
グーフィス追加/切り替え検討
📝 まとめ
グーフィスは胆汁酸の生理的な働きを巧みに利用した、まさに「生体の知恵を薬学に活かした」革新的な便秘治療薬です。
覚えておきたいキーポイント
- 胆汁酸の腸肝循環阻害による三面的効果
- 平均5.2時間での早期効果発現
- 腎機能非依存で幅広い患者に適応可能
- 食前推奨だが食後も可の柔軟性
- 経腸栄養のみの患者では効果限定的
慢性便秘症の治療選択肢が豊富になった今、各薬剤の特徴を理解し、患者一人ひとりに最適な治療を提案することが薬剤師の腕の見せ所です。グーフィスという新たな武器を活用して、患者さんのQOL向上に貢献していきましょう!
免責事項
本記事は、一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断や治療を推奨するものではありません。
記事中で取り上げている薬剤情報は、信頼できる資料に基づいて正確に記載していますが、
漫画内の会話やエピソードはフィクションであり、実際の医療現場の状況とは異なる場合があります。
実際の診療にあたっては、必ず医師や薬剤師等の専門家にご相談いただき、最新の添付文書等をご確認ください。
本記事の内容に基づく自己判断による治療や投薬等によって生じた損害について、当サイトは一切の責任を負いかねます。
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