



「もうコロナは大丈夫なんでしょ?」──そんな空気が社会に広がる一方で、じつは今もなお高齢者や基礎疾患をもつ方々にとって、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は深刻なリスクを伴います。感染経験のない高齢者も多く、ワクチン接種率の低下も加わり、入院や死亡の危険性は今も現実のものです。
そのような中で、高い有効性を示す経口治療薬「パキロビッドパック」の適正使用は、医療現場における重症化予防のカギを握ります。本記事では、薬剤師として知っておきたい基礎知識から、現場での活用ポイントまでを整理します。
1. パキロビッドパックの基礎情報
✅ 適応
SARS-CoV-2による感染症
✅ 一般名
- ニルマトレルビル/リトナビル配合剤
✅ 用法・用量
- 成人及び12歳以上かつ体重40㎏以上の小児に ニルマトレルビル300mg+リトナビル100mgを1日2回、5日間
- 開始は発症から5日以内が原則
- 腎機能によって用量調整あり(eGFR30〜60で減量、30未満では原則使用不可)
✅ 禁忌
- 腎機能又は肝機能障害のある患者で、コルヒチンを投与中の 患者
- 本剤の成分に過敏症の既往
リトナビルはCYP3A阻害剤として強い薬物相互作用を引き起こします。
併用禁忌薬
- エレトリプタン臭化水素酸塩、アゼ ルニジピン、オルメサルタン メドキソミル・アゼルニジピン、 エプレレノン、アミオダロン塩酸塩、ベプリジル塩酸塩水和物、 フレカイニド酢酸塩、プロパフェノン塩酸塩、キニジン硫酸塩水 和物、リバーロキサバン、チカグレロル、アナモレリン塩酸塩、 ボクロスポリン、リファブチン、ブロナンセリン、ルラシドン塩 酸塩、ピモジド、スボレキサント、エルゴタミン酒石酸塩・無水 カフェイン・イソプロピルアンチピリン、エルゴメトリンマレイ ン酸塩、ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩、メチルエルゴメトリ ンマレイン酸塩、フィネレノン、イバブラジン塩酸塩、シルデナ フィルクエン酸塩(レバチオ)、 タダラフィル(アドシルカ)、 バ ルデナフィル塩酸塩水和物、ロミタピドメシル酸塩、ベネトクラ クス〈再発又は難治性の慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リン パ腫を含む)の用量漸増期〉、 ジアゼパム、クロラゼプ酸二カリ ウム、エスタゾラム、フルラゼパム塩酸塩、トリアゾラム、ミダ ゾラム、ボリコナゾール、アパルタミド、カルバマゼピン、フェ ニトイン、ホスフェニトインナトリウム水和物、フェノバルビタ ール、メペンゾラート臭化物・フェノバルビタール、リファンピ シン、エンザルタミド、セイヨウオトギリソウ(St. John’s Wort、 セント・ジョーンズ・ワート)含有食品
対処方法としては、以下のような代替・減量・休薬を検討します:
- 代替薬の提案
- 用量調整(CYP3A依存性の代謝を受ける薬物)
- 投与中止(中止可能な薬であれば5日間のみ休薬)
参考:国際医療センター薬剤部一覧表、リバプールCOVID-19 drug interaction checker
コロナの今 〜“もう大丈夫”は本当か?〜
現在、日本では「もうコロナは終わった」という雰囲気が広がっていますが、実際にはそうではありません。
特に高齢者や基礎疾患を持つ方の中には、これまで感染経験がないという人も多く、抗体保有率も欧米諸国に比べて2年遅れの水準と言われています。
さらに、重症化リスク因子を持つ方々へのワクチン接種率も低下傾向にあり、感染時の入院リスクは依然として高いままです。
- インフルエンザに比べて入院率は約6倍
- 夏の感染拡大時には入院困難な状況も
- 高額な医療費(例:1割負担でも入院で約5~8万円)
こうした背景から、「感染したら軽症で済む」と考えて対策を怠るのは非常に危険です。
パキロビッドのような重症化を防ぐ治療薬の存在と、適切な使用が、今も重要な意義を持っています。
コロナ治療におけるパキロビッドパックの位置づけ
パキロビッドパックは、世界的には経口抗ウイルス薬の標準治療薬として位置づけられています。
実際、欧米諸国では経口治療薬の中で約9割がパキロビッドというデータもあり、有効性の高さが広く認知されています。
日本でも第一選択薬はパキロビッドパックなのですが、薬物相互作用のリスクが強調されるあまり、使用に慎重な医療者が多く、実際の処方率は低い状況が続いています。
パキロビッド使用の実際(米国データより)
- 約6万人のCOVID-19患者を対象としたリアルワールドデータによると
8割以上が薬剤調整によりパキロビッドの使用が可能であったと報告されています。 - 米国では薬剤師が処方に深く関与しており、適正使用における重要な担い手となっています。
このように、薬剤師が薬物相互作用の評価と対処法を提案できるかどうかが、パキロビッドの適正使用を大きく左右します。
併用薬の調整や代替提案を通じて、薬剤師が処方を後押しする役割を果たすことが求められています。
パキロビッドパック臨床注意
パキロビッドパックの使用にあたっては、以下のような臨床上の注意点があります。
🔸 投与開始は「発症から5日以内」
ウイルス増殖期を逃すと有効性が低下するため、できるだけ早期の診断・処方が必要です。
発症日・検査日・来局日のズレに注意が必要で、薬局でも患者からの正確なヒアリングが重要です。
🔸 服薬アドヒアランスの確認
- 1日2回、5日間の服薬完遂が前提です。
- 食事の有無に関係なく服用可能。
- 錠数が多く(1回3錠)、高齢患者では服薬支援や家族のサポートが必要になることも。
🔸 価格に対する心理的ハードル
- 現在は公費が終了し、1割負担でも約1万円程度の自己負担が発生。
- 「高い」「風邪薬じゃだめなのか」といった声に対しては、入院費との比較や費用対効果を説明することが求められます。
🔸 喫煙者・高齢者への指導
- 喫煙はパキロビッドの効果を妨げる可能性もあり、服薬期間中の禁煙指導は重要です。
- 高齢者や多剤併用患者では、併用禁忌や腎機能低下により調整が必要なケースも多いため、薬剤師の役割はより大きくなります。
コロナ後遺症
💢 COVID-19後遺症(Long COVID)の症状と特徴
- 症状は多岐にわたる
- 肉体面:疲労・息切れ → 重症と相関
- 精神面:集中力低下・抑うつ → 若年女性に多い
- コロナ感染後月経関連症状(月経不順、不正出血、PMSなど)も報告されており、働く世代の生産性低下が世界的課題
- SARS-CoV-2の腸管内持続感染による腸内細菌叢の変化
→微笑血管障害、運動障害、セロトニン産生低下による認知機能への影響 - 高齢者の脳萎縮や認知機能低下が報告
- 後遺症の確立治療法はまだ確立されておらず、予防(ワクチン)が鍵
ワクチン接種状況と課題
現在、欧米諸国では年2回(春・秋)の定期的なワクチン接種が行われており、特に重症化リスクのある高齢者や基礎疾患を持つ人への予防的介入が一般的です。ワクチンによる重症化・入院リスクの低下がエビデンスとしても確認されており、後遺症の抑制にも一定の効果が示唆されています。
一方、日本では感染経験のない高齢者が依然多く、免疫の獲得が不十分な層が一定数存在しています。にもかかわらず、2024年以降、ワクチン接種率は低下傾向にあり、「もうコロナは終わった」という空気感から、接種が先送りされるケースも目立ちます。
薬剤師が担う、これからのCOVID-19対策
感染状況が落ち着いているように見える今こそ、医療者の備えと啓発が問われる時期です。
パキロビッドパックは、重症化・入院・後遺症のリスクを下げる重要な治療選択肢であり、その適正使用を支える薬剤師の役割は決して小さくありません。
- 処方にあたっての併用禁忌チェックや腎機能に応じた用量調整
- 高額な薬剤に対する患者の理解を促す服薬指導
- 服薬完遂を支えるアドヒアランス支援
- ワクチン接種の意義や後遺症リスクの周知
これらは、薬剤師だからこそ担える「最後の砦」です。
今後も感染の波は断続的に訪れる可能性があります。患者の不安を和らげ、確かな情報をもとに意思決定をサポートできる存在として、日常業務のなかにCOVID-19対策の視点をしっかりと根付かせていくことが求められています。
免責事項
本記事は、一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断や治療を推奨するものではありません。
記事中で取り上げている薬剤情報は、信頼できる資料に基づいて正確に記載していますが、
漫画内の会話やエピソードはフィクションであり、実際の医療現場の状況とは異なる場合があります。
実際の診療にあたっては、必ず医師や薬剤師等の専門家にご相談いただき、最新の添付文書等をご確認ください。
本記事の内容に基づく自己判断による治療や投薬等によって生じた損害について、当サイトは一切の責任を負いかねます。
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